作家インタビューシリーズ2

ものづくりのこと ~枯白の場合~

photopicnicのオリジナルプロダクトをつくってもらっている作家さんのアトリエにお邪魔して、

どんな思いで、どうやって創作をしているかを教えてもらうインタビューシリーズ。

第2回は、額をオーダーしている枯白の乾喬彰(タカ)さん・直実(ナオ)さんです。

 

 

取材・文・撮影:photopicnic(藤田二朗・野村美丘)

ふたりのなかで、同じ割合に

 

──枯白として活動を始めてどのくらいになりますか?

 

タカ:2019年の秋でちょうど10年ですね。始めて1年くらい経ったころだったか、雑誌取材を受けたときに、結成時期を設定してくださいって言われて、じゃあ2009年の10月にします、と。実際はけっこうふわっと始めています。僕らはその前は、高校の美術の非常勤講師をしてたんですよ。

 

──おふたりとも?

 

タカ:はい、大学を卒業した直後から。

 

──へえ。べつに美術の先生になりたかったわけではなく、ですか?

 

ナオ:ないけど、教職(課程)をとっていたので。

 

タカ:僕はなってもいいかなとは思ってたけどね。

 

ナオ:あ、そう?

 

タカ:選択肢のひとつとしてあってもいいかな、というくらいだけど。実際、授業は楽しかったので、枯白の活動と並行して数年はやってたんですよ。周囲からも、採用試験を受けたほうがいい、もっと安定してお金を貯めてから作家をやっても遅くない、なんて言われましたけど。僕は、試験に受かってしまったらもう先生になるしかないと思ったし、長く続けていたら、辞めるときにすごく勇気がいるんじゃないかと思った。それで、非常勤を辞めて、枯白の活動に本腰を入れることにしました。やりたいことをストレートにやっていきたいってずっと思っていたから。

でね、じつはナオさんのほうは両親とも小学校の先生で、もっとちゃんとしたほうがいいっていう意見だったんですけど。僕はこんな調子やし、ナオさんも辞めたら?って。

 

ナオ:「辞めたら?」じゃないよ、「辞めて!」って言われたの。私はそのときはまだ全然辞める気はなかったんですけど、タカさんが「自分と同じタイミングで辞めてくれ」って。

 

──なぜですか?

 

タカ:枯白は僕ひとりのものではなく、ふたりのものだっていう意識が当時からすごいあったんです。枯白としても軌道に乗り始めてたので……って、何が軌道かわかんないですけど(笑)。

 

ナオ:全然わからん(笑)。

 

タカ:でも、順調にいってる、このままもっといける、という自信があったんですよね。一緒にやっていきたいっていう思いが強かったし、それぞれ別のことをして、枯白が僕のものになってしまったら、ナオさんが帰ってきにくくなる気がしたし。

 

ナオ:ふたりのなかで枯白の割合が変わってしまったらよくないからと説得されました。私はけっこう長く悩んだんですけどね。

 

──自ら保険をはずしたんですね。

 

つくりたいものを、つくる

 

──おふたりは同じ大学の同期生ですが、いつからつき合っていたんですか?

 

タカ:3年生のとき。僕は4年生の秋からドイツに留学してたんですよ。その間にナオさんは大学を卒業して。で、僕が帰国する数ヶ月前にナオさんを呼んで、向こうで一緒に住んだんです。僕は写真を、ナオさんは切り絵をやってたから、ドイツの知り合いのカフェで写真と切り絵の展示をして。それが一緒にものづくりをした最初ですね。

 

 

──でもそれは共同制作ではなく、それぞれにそれぞれのものをつくったんですよね?

 

タカ:そうですね。でも、ふたりで一緒になんかできたらいいねっていうのはその当時から言っていたことではありました。

 

──ふたりでやっていこうってなったときに、コンセプトや方向性の相談はしましたか?

 

タカ:……してない、と思います。そのときにつくりたいと思ったものをただつくるっていうのを、ずっと続けてるだけなんですね、いまも。

だから最初は自分が欲しい家具を、自分たちのためにつくってただけなんです。売ることを考えるようになったのは、クラフトフェアに出品するようになってから。全国のクラフトフェアにいろいろ出させてもらったのが自信にもつながって、生計を立てるっていうふうにどんどんなっていったんですけど。

方向性については、話し合わないようにしてるっていうのもあるかも。というか、その必要が特にない。だって、そのときに自分たちが欲しいと思ったものをつくって、それをいいと思った人が買ってくれるっていうのが、いちばん純粋なかたちじゃないですか。それを続けたいと思うから。

 

──目的はあくまでも制作であって、結果として売れることがついてくるっていうことですね。

それができれば理想的ですけど。

 

タカ:今後こういうのをつくっていきたいっていうようなことを話すと、売れる、売れないを考えてしまうようで怖い、というのもある。自由でいたいという気持ちがあるかもしれません。

 

──自分たちが欲しいものをつくるのがいちばん大事だとしたら、注文とはどう折り合いをつけるんですか?

 

タカ:そこがすごく難しいところで。オーダーは最初、やらないって決めてたんですよ。でも、やらないことにはやっていけないと気づいて(笑)。

 

ナオ:つくってほしいってわざわざ来てくれていろいろ話してもらうと、こちらもつくりたくもなってしまうしね。

 

タカ:そう。でもありがたいことに、僕らのやりたい方向性をわかってくれてるいいお客さんが多くて。これまで、やりたくない仕事はなかったかな。

 

ナオ:そうね。

 

タカ:図面がすでに書かれていて、このサイズでこの木を使ってくださいって指定があるオーダーなら、お断りしてたと思うんですけど。たとえばテーブルの注文をいただいたら、木はこちらから提案したのを選んでもらうっていう感じ。やりたくないものはやらない主義なんです、僕は。つくりたいからつくるっていうのが、すごく大事なので。

 

人に触れられる相棒として

 

──デザインのコンセプトや方向性の話し合いはしていないということですが、枯白の作品にはどれも枯白らしさが確かにありますよね。純粋にいいと思うかたちにしたら、それが自然に枯白らしくなる?

 

タカ:そうですね。緊張感があるものにしたいなとは思っています。それって、ゴツさとか重さとは違う、軽やかさに寄っていくっていうことなんじゃないかな。写真でも、シルエットや背景ってめちゃくちゃ大事だと思うんですけど、同じように、この天板を活かすならこうかな、と答えが導き出されるような。

 

──なるほど。「枯白」という名づけには意味合いがありますよね?

 

タカ:あ、そうなんです。そこが変えてはいけないところで。使っていくうちにどんどん味わいが増していくことを「枯れる」、それが新しい表情をつくっていくことを「白くなる」と表現して、そういうものをつくりたいという感覚を「枯白」という造語にしました。逆に言えば、それさえ貫いていれば何をつくってもいいということですね。

 

──そのコンセプトについては、さすがに話し合ったでしょう?

 

タカ:……そう、ですよねえ(笑)。でも、そういうのが好きだから、そこに向かいたいっていう気持ちでしかないですよね。ドイツの蚤の市でアンティークのハンガーやなんかを買って、こういうのをつくる人になりたいなっていう気持ちが芽生えていったんです。

大学時代の学外実習で、東京の活躍されてるデザイナーの方の事務所にお邪魔する機会があって。みなさん、おしゃれな格好して、おしゃれな靴を履いて。

 

ナオ:靴。そこなんだ(笑)。

 

タカ:そういう一流の方々の話を聞くのは大好きだったんです。だから僕はデザイナーになりたいと思ってたんですけど、実際の現場を見せてもらったら、オフィスにパソコンが何台も並んでて、おしゃれに仕事されてて……自分がここに身を置いてるというイメージができなかったんです。

当時はたとえばケータイ電話のデザインがもてはやされてたけど、僕は最先端のケータイをデザインしたいとは思わなかった。それって時代で入れ替わっていくものじゃないですか。僕は、使い捨てではなくて、もっともっと使って味が出て、人がリアルに触れ続けるものに触っていたいなって。土とか鉄とか自然の素材に触るのが大好きなナオさんのような人が隣にいたことも影響してると思います。

 

ナオ:大学で、課題を出されて次々に制作するんですけど、あるとき気づいたんです。私は素材を見るのも、触るのも、つくるのも好きだけど、自分の考えてることや感じてることを形にして、発表して、世に出して、評価されたいって欲求はそんなにないかもしれないって。

そこから、道具ってすごくいいなって思い始めて。彫刻するにも木工するにも、まあなんでもそうですけど道具が必要で。道具を自分の手のように扱えるといいな、でもいちばんの道具は自分の手であるべきだな、とか。だから、ずっと人に触ってもらえる相棒みたいな、そういうものを自分がつくれる立場になれたらいいなって憧れが芽生えたんですよね。

で、大学を卒業したあとに、ドイツのタカさんのところに、私もワーキングホリデーで行かせてもらって。向こうの人は、古い道具や家具を何世代も使い続けてたりしてて、そういうの、やっぱりいいなってあらためて思って。それで、帰ってきて、つくり始めたんですね。

 

共有したことが作風に活かされて

 

──おふたりともそのときから、まったくブレてないわけですね。

 

タカ:特にナオさんはそうですね。僕は、こっちもいいかな?って定まってないところがあって、わからなかったら相談するんですけど。ナオさんは直感がしっかりしてて、そういうのがない。自分のなかの正解がちゃんと線引きできるタイプなんじゃないかな。

 

ナオ:そう? わかんないけど……。

 

タカ:でも、たとえば一緒に風景を見ても、これっていいよねみたいな感覚が学生当時からすごい似てたし、ドイツにいても、この教会の手すり、めちゃくちゃかっこいい!みたいなことを言い合ってたから、そういうところで意思統一みたいなのはされていっちゃったのかもしれない。

 

ナオ:自然とね。それがいまになって役立ってるなって感じることも、もちろんあります。あのとき見たあの感覚を、もう1回ここでいま再現したい、っていうか。ああいう感じのものつくりたいってなったとき、同じものを見てたから、言葉が足りなくてもすぐにお互いがピンとわかるっていうのは、すごいラッキーなことだなと思うことはよくあります。

 

──ふたりのつきあいがどんどん古くなっていくことで、新しく見えてくるものがある。それこそ、ふたりの関係自体が「枯白」みたいな。

 

ふたり:ああ~!

 

──あれ? ちょっと、いますごくいいこと言っちゃったんじゃない(笑)?

 

ナオ:そういうふうに、なれたらいいよね。

 

タカ:うん。

 

枯白(こく)/乾喬彰(いぬい・たかあき)・直実(なおみ)

ともに兵庫県出身、沖縄県立芸術大学卒業の夫婦ユニット。ドイツ留学中に自分たちがつくりたいものの礎を固め、帰国後、美術講師として働きながら枯白の活動を開始。木、鉄、真鍮、革など使うことで味わいを増す素材で、使う人の長く相棒となるような道具を製作している。余談ですがppはご本人たちに会うまで、その渋い作風から枯白の正体はきっと頑固親父だと思っていました。

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